インドネシアの自殺率は高い?それとも低い?インドネシアのネット掲示板に「日本は確かに自殺大国だけど、インドネシアはどうなの?」というスレッドを立ててみたところ全く反響がなかったので、とりあえず本文だけでも紹介させてください(笑)。
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インドネシアの自殺率は謎である。これが今回のエントリーの結論です。ただ、これで終わってしまう訳にもいかないのでまずは経緯を説明いたします。
実は-と書くほどの事でもありませんが-日本の自殺率の高さについてはインドネシアでも意外に知られていまして、僕自身「何で日本って自殺が多いの?」と、これまでに何度もインドネシアの皆さんから聞かれました。これに関連して「日本人には宗教がないから自殺が多いんでしょ?」というのもありがちな質問ですね。日本の自殺の多さ(自殺率の高さ)についてはデータでも示されている通りであり、僕の場合は特に反論することもなく、大抵は「なんでだろうね。専門家じゃないから分からないや」とテキトーにお茶を濁して終わりにしていました。
しかしながら、そういった質問を受ける中でひとつ気になったのは、自殺に関してインドネシア人が持つ絶対的な「自信」についてです。「なぜ自殺が多いの?」という質問の背景には、インドネシアでは自殺が少ないという「自信」が、そして「宗教を持たないから自殺が多い」という意見の背景には、自分たちには宗教があるから自殺が少ないんだという「自信」が見え隠れしているように思います。日本の自殺について質問してきたインドネシア人の多くは、少なくとも「自殺」というキーワードを自国インドネシアと結びつけて考えているようには見受けられませんでした。
では、インドネシアの自殺率はそういった「自信」を持てるほど低いのでしょうか?ひねくれ者の僕としては当然、そんな疑問が湧いてくるわけです。そこでインドネシアのメディアの報道をもとに彼の国の自殺率について調べてみたのがかれこれ1年前のこと。最近、こういったブログをやっていることもあり、当時書いた自殺率に関する文章をインドネシアのネット掲示板にあげてみたのですが...なんと全く反響がありませんでした(笑)。確かに分かりにくい文章であることは認めますが、何の反論もないのはちょっと残念でしたね。
本来であればそこで終わりの話です。ただ、日本語でインドネシアの自殺率について調べてもほとんどデータが出てこないので、せっかくなので以下に本文を紹介します。興味がある方はご一読いただければ幸いです。少し古い文章ですので、最新のデータをご存知の方がいれば教えて頂けると非常に助かります。
ひとつの謎-インドネシアの自殺率
真実はいつもひとつ、と人は言う。だが、現実にはこの世界は謎に満ちている。おそらく私たちの誰もを戸惑わせる謎のひとつがインドネシアにおける自殺率だろう。
自殺率とWHO
自殺の問題を論じる際、世界健康機関(WHO)のデータが最も頻繁に取り上げられる。例えば、WHOの報告によれば、日本では2009年に人口10万人当たり24.4件の自殺が発生している。この種の数字は私たちも様々なメディアでたびたび目にしているはずだ。では、インドネシアの自殺率はどうなっているのだろうか?
実はインドネシアの自殺率に関して、WHOは公式なデータを発表していない。WHOが刊行している『ワールド・ヘルス・アトラス2011』には「(インドネシアの)自殺率情報は利用不可」と記されている(参照:上記の写真及び文末の[1])。また、WHO公式サイトで世界各国の自殺に関するデータを示したページ「Country reports and charts available」にも、インドネシアの調査結果は記載されてない(参照:[2])。以上の点から考えると、WHOの公式サイトでインドネシアの自殺に関するデータを見つけることは不可能、少なくとも難しいと言えるだろう。
メディアが報じるインドネシアの自殺率
しかしながら、ここ数年間、インドネシアの複数のメディアがWHOの調査に基づいてインドネシアの自殺問題について報じてきた。以下にそれらの報道を引用してみよう。
「インドネシアでは人口10万人当たり自殺者数は1.6-1.8人に達すると報告されている。この数値はWHOが2001年に行なった予測に基づいている」(2011年1月14日『メディア・インドネシア』、参照:[3])
「WHOのデータによれば、インドネシアでは2005年から2007年にかけて5万人の自殺者が出ている」(2011年2月21日『ドゥティック』、参照:[4])
「WHOの2010年の報告によれば、インドネシアの10万人当たりの自殺者数は1.6-1.8人に達していると氏(LKPBD所長)は語った」(2012年6月1日『レプブリカ』、参照:[5])
「WHO精神衛生および薬物問題予防部門部長のベネデット・サラシーノ氏は2005年、インドネシアにおける自殺の死亡件数は10万人につき24件であると語っている。仮にインドネシアの人口を2億2千万人とした場合、5万件の自殺が起こっていると推定される」(2012年10月8日『コンパス』、参照:[6])
以上の引用から、インドネシアの自殺率は以下のようにまとめられる。
(1) 2001年:人口10万人当たりの自殺者数は1.6-1.8人、[3]
(2) 2005年:10万人当たり24人、[6]
(3) 2005-2007年:10万人当たり7.24人、[4]
(4) 2010年:10万人当たり1.6-1.8人、[5]
※(3)に関しては、インドネシアの人口を2億3千万人として筆者が計算。
上記の(1)と(2)に関しては他の報道ですでに数値の元となるデータが示されている。インドネシア共和国保健省精神衛生局局長のイルマンシャによると、1.6-1.8という自殺率はインドネシア警察当局による2001年の報告に基づいているという(2011年1月18日『ジャカルタ・ポスト』、参照:[7])。しかし、だからといってこの数字がそのまま信用できるわけではない。インドネシアの自殺件数に関して、トリサクティ大学講師のアフマッド・プライトノ(精神衛生)は過去に以下のように述べている。
「アフマッドは自身の研究で、2006年のジャカルタの自殺件数はおよそ10万人(※)としているが、自殺の一部が事故として報告されているため、この数字はさらに上がる可能性があると述べている」(2007年10月9日『ジャカルタ・ポスト』、参照:[8])
※この10万人という数字はあまりにも桁が大きいため、打ち間違えの可能性が大きい。例えば、自殺率の高い国としてたびたび名前の挙がる日本では、年間の自殺者数は全国でおよそ3万人である。
ここでは上記の「自殺の一部が事故として報告されている」という一文に留意する必要がある。なぜ自殺を事故として報告しなければならいのか、その理由は定かではない。だが、仮にこの意見が正しいとすれば、インドネシアの警察当局が発表している自殺件数は氷山の一角に過ぎないからだ。「残念ながら、この件に関する政府の公式な数字はいまだ発表されていません」とアフマッドは語っている(参照:[8])。
では、(2)の「10万人当たり24人」という数字は何を意味しているのだろうか。この数字はWHO精神衛生および薬物問題予防部門部長のベネデット・サラシーノが2005年に発表したものだ。これはインドネシアの人口を2億2千人と仮定した場合、年間5万件の自殺が発生している計算になる。この24、もしくは5万という数字はこれまでに、『コンパス』『テンポ』『メディア・インドネシア』など、複数のインドネシアメディアに比較的多く引用されてきた(参照:[6]、[8]-[12])。例えば、昨年10月の『ジャカルタ・ポスト』紙は以下のように報じている。
「WHOの2005年のデータによると、インドネシアでは毎年少なくとも5万件の自殺が発生している。インドネシア共和国保健省精神衛生局局長のディア・スティア・ウタミは、インドネシアの自殺件数に関するより新しいデータはないと語っている。『私たちにできるのは、インドネシアでは毎日150件の自殺が起こっていると推定するだけです』とディアは前述のWHOのデータを参照しながら語った」(2012年10月6日『ジャカルタ・ポスト』、参照:[9])
しかしながら、この24(もしくは、5万人)という数字の引用には慎重にならなければならない。なぜなら、それらの数字はWHOの公式ウェブサイトで公表されたものではなく、ベネデット・サラシーノの個人的な見解である可能性があるからだ。また、トリサクティ大学のアフマッド・プライトノは2009年4月にスラバヤで行われた自殺に関するシンポジウムで、それらのデータの妥当性について言及している。
アフマッドによると、「私の見解では、インドネシアに関するそれらのデータはあまりにも高すぎる。それほど高い数値が出た背景には、2004年末のスマトラ沖地震以後のアチェにおける集団的抑鬱がある。グヌン・キドゥルでは10万人当たり9人という高い自殺率を示している。これはこの30年にわたって開発から取り残されていると感じるものがいたからだ。1995年から2004年にかけてのジャカルタの自殺率はグヌン・キドゥルよりも低く、10万人当たり5.8人となっている。これはジャカルタでの調査報告が良好であったためだ」(2012年10月8日『コンパス』、参照:[6])
(1) 2001年:人口10万人当たりの自殺者数は1.6-1.8人、[3]
(2) 2005年:10万人当たり24人、[6]
(3) 2005-2007年:10万人当たり7.24人、[4]
(4) 2010年:10万人当たり1.6-1.8人、[5]
※(3)に関しては、インドネシアの人口を2億3千万人として筆者が計算。
上記の(3)の自殺率に関しては、他の報道からその妥当性を確認することはできなかった。そして、(4)の1.6-1.8という数字は、ジョグジャカルタのアル・コディル(Al Qodir)、「自殺予防及び研究所(LKPBD)」所長のウィラナタ・アディが述べたものだ。アル・コディルの公式ウェブサイトにも「2010年のWHOの報告によると、インドネシアの自殺率は人口10万当たり1.6-1.8人に達している(参照:[13])」という、同様の記述がみられる。しかし、すでに冒頭で述べた通り、インドネシアの自殺率はWHOの公式ウェブサイトには記載されていない。2012年11月現在、2010年の自殺に関するデータも同様に記載されていない。
ひとつの謎としてのインドネシアの自殺率
インドネシアのメディアは自国の自殺問題について言及する時、WHOのデータをたびたび引用している。それらの報道は以下のようにまとめることができる。
(1) 2001年:人口10万人当たりの自殺者数は1.6-1.8人、[3]
(2) 2005年:10万人当たり24人、[6]
(3) 2005-2007年:10万人当たり7.24人、[4]
(4) 2010年:10万人当たり1.6-1.8人、[5]
※(3)に関しては、インドネシアの人口を2億3千万人として筆者が計算。
上記の数字は全てWHOが行なった調査にもとづいている。しかしながら、これまで述べてきたとおり、WHOはインドネシアの自殺に関するデータをまだ公式には発表しておらず、少なくとも公式ウェブサイトには記載されていない。また、それらのデータの妥当性に関しても他の報道を参照する限り、疑問符をつけざるを得ない。インドネシアのメディアは他の選択肢がないがゆえに、自国の自殺率に関して確証の無いデータを使わざるを得ない状況にあるといえるだろう。
真実はいつもひとつ、と人は言う。だが、インドネシアの自殺率は依然として謎のままである。
参考:
[1] Indonesia - Mental Health Atlas 2011, WHO
http://www.who.int/mental_health/evidence/atlas/profiles/idn_mh_profile.pdf
[2] "Country Reports and Charts Available", WHO
http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide/country_reports/en/
[3] http://www.mediaindonesia.com/read/2011/01/01/195735/71/14/Angka-Bunuh-Diri-Meningkat
[4] http://news.detik.com/read/2011/02/21/123633/1575035/159/hidup-terlalu-berarti-untuk-diakhiri?nd992203605
[5] http://www.republika.co.id/berita/nasional/umum/12/06/01/m4y5uz-memprihatinkan-kasus-bunuh-diri-di-indonesia
[6]http://health.kompas.com/read/2012/10/08/10332182/Memilih.Bunuh.Diri.sebagai.Jalan.Pintas
[7] http://www.thejakartapost.com/news/2011/01/18/government-struggles-cope-with-suicide-rates.html
[8] http://www.thejakartapost.com/news/2007/10/09/some-1500-people-commit-suicide-daily-who.html
[9] http://www.thejakartapost.com/news/2012/10/06/depression-heart-disease-linked.html
[10] http://www.mediaindonesia.com/read/2012/10/10/353497/293/14/Wah...-Orang-Indonesia-Rentan-Gangguan-Jiwa
[11] http://www.tempo.co/read/news/2012/10/06/060434077/150-Orang-Bunuh-Diri-Setiap-Hari-di-Indonesia
[12] http://health.kompas.com/read/2012/10/10/11195749/Ketika.Asa.Hidup.Sirna
[13] http://alqodir.co.id/web/index.php/al-qodir-bentuk-lembaga-kajian-dan-pencegahan-bunuh-diri/
[14] “Suicide Rates per 100,000 by Country, Year and Sex (Table)”, WHO
http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide_rates/en/
コメント
コメント一覧 (20)
積極的自殺じゃなくても薬物過剰摂取とか無謀運転とか自殺と変わらないじゃないかと思う国もあったりするけど。
そりゃ公表できませんわな
インドネシアだけじゃなく自殺率についてはぶっちゃけ世界の7割ぐらいは謎、もっと言えば直近2,3年以内で調査、公表してる国、地域は全体の1割にも満たない
欧米でも遺族は、転落、薬の誤飲などと事故扱いにしたがるとか
あまり自殺について語りたくないという意識もあるのかも
自さつに偽装された保険金さつ人を引かないとね
ケーサツはちゃんと調べないし
以前、テレビでアジア系のムスリムの女性が
「日本人がイスラム教徒になったらイジメはなくなります!
イスラムの社会にはイジメはありません!!」って
断言したてけど、自殺に関しても同じような感覚なんだろう
要するに教会の墓地にA一族の歴代の墓所があったとしても自殺したA一族の者は教会の墓所には埋葬できませんでしたし、それどころか教会で葬儀を行うことすらできなかったのです。
その後に教会法が改正され、自殺は神への冒涜ではなく心の病による病死であるとして教会での葬儀や教会の墓地への埋葬を許可しました。
しかし、現在でも歴史が古い教会がある教区や一部の教会では自殺者の葬儀や埋葬を事実上拒否し続けています。
またキリスト教圏には民間の検死医制度や民間の検死会社があり、遺族からの依頼で有料で検死を行います。
これら民間による検死報告書は保険金請求以外の目的であれば公文書として扱われ、事故死との検死報告書があれば教会側も葬儀や埋葬に応じてくれます。
日本の検死率は低すぎるじゃないかと報道するマスコミもありますが、民間による有料の検死件数を除外すると日本やEU諸国やアメリカでの検死率はほとんど差がないのですよ。
確かに以前は世界3位辺りをうろちょろしてたけど
現在は9位ぐらいまで下がってます。韓国が世界2位、ラトビアだかが1位
管理人さんも、その辺インドネシア人に言っといて下さいw世界一はデマですよと
自殺率なんて国によってカウントの仕方が違うし宗教上の理由で事故にしたりするしね
あと、日照条件の悪い国は自殺率が高いと言う研究報告もあるそうですよ
実際、北欧やロシア東欧日本など冬が長い国や豪雪地帯は自殺率高いですよね
信仰を持つ人ほど自殺を拒否する。
外国人が自殺を気にするのはそのため。
日本人はこれを知らないから外国人がなぜ日本の自殺ばかり気にするのか不思議に思う。
一神教の国のタブーで、日本ではそんなことがないだけなのに。
日本の自殺率は高いとよく言われるが、日本の自殺率より高い国はある
自殺率を調査してない国も多い
宗教に基づく考えはあるだろうが、おそらく自殺率にはさほど影響はないと思う
自殺する人は追い込まれた人であって、神にも見放された状態だと思う人が多い
それを神を信じて自殺しないってのは考えにくい気がする
イジメだって普通に世界中に存在するしな
要するにただのデマ
やるならすべての国を調べてあげた上でやって欲しい
日照時間が長くて暖かいところは自殺率も低いらしいが、それでも高い自殺率なら相当追い詰められた生活をしてる人が多いんだろう。
1位 グリーンランド 2位 リトアニア 3位 韓国 4位 ガイアナ 5位 カザフスタン
6位 中国 7位 ベラルーシ 8位 スロベニア 9位 ハンガリー 10位 日本
確かにWHOのリストにインドネシア、載ってないわ。
日本、ちょっと前に見た時は9位だったけど、今見たら10位になってた。
日本とロシアは年々、順位下げてるね。(ロシアは13位)
芥川や川端康成みたいに日本を代表する超一流の作家や文化人も自殺してるのを見ても、かなりの数の政治家、大臣などが恥に絶えかねて自殺するのを見ても、日本の社会の問題だけと言うより日本人のメンタルが一番大きな問題だと思います
日本人の道徳が宗教に根ざしてないという日本独特の誠実な面も一部で現れてると思います
悪いやつはなかなか死なずに長生きしつづけry...
オランダの安楽死者数は5000人にもなると言われてます
あんなに人口の少ない国で自殺を希望する人がものすごい多いですが「安楽死」と呼べれて自殺数にカウントされてません
それから日照時間の短い国が自殺率高いという研究結果がインドネシアにも広まってるとしたら、それが管理人さんが感じられた自信の原因の一つになってるという事はないでしょうかね、北国と逆だから自殺率は低い、みたいな。広まってるとしたらですけど。
でも北欧って白夜で有名ですよね、あれって日照時間が長いって言わないんでしょうかね。
個人的には冬大好きなんで日照時間がっていうのには懐疑的なんですが。
事故や病気で死ぬ人にいったいどんな罪があったのか教えてくれ
一昔前のデーターからのイメージだけでなく
近代まであった切腹のイメージや
神風なんかの独特な死生観の強いイメージが有るからかも
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