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インドネシアの『コンパス』 紙に掲載された安倍首相と日中関係に関する提言です。この時事コラムはコンパス紙上級記者のレネ氏が毎週水曜日に連載しています。

安倍晋三日本国総理大臣への覚え書き
レネ・L・パティラジャワネ

安倍総理大臣、首相に再任された2012年12月の公約通り、再び活況を取り戻しつつある「アベノミクス」に対して、まずはジャカルタからお祝い申し上げます。日本の20年にわたるデフレは終焉を迎え、成長は上向き、その勢いも加速しています。

「アベノミクス」政策は、衆参両院における自由民主党(自民党)の支配を通じて、年率1.8パーセントの成長目標を達成するべく進行しています。日本銀行による質的量的金融緩和政策によって、望む道筋に合わせたインフレーションも起こっています。

しかしながら、安倍総理大臣、私たちはこの覚え書きをお伝えする必要があると考えています。なぜなら、昨年ワシントンで掲げた「日本は戻ってきた」というスローガンで見せたあなたの自信が、日本の平和主義の精神を危うくする「積極的平和主義」構想を通じて、私たちには危険なものと映るナショナリズム的行動を引き起こすことを懸念するからです。

尖閣諸島と呼ばれる3つの岩礁・無人島を巡り、日中間で続くナショナリズムの応酬。この「憎しみの政治」は両国の数百年にわたる関係を反映したものであるとはいえ、多くのアジアおよび地域外諸国に不安を与えています。誰もが気にかけているのは、ナショナリズムの復興というレトリックがこの地域の安全と安定を阻害する要因となることです。

私たちは以下の2点を伝えることで、安倍総理大臣の判断材料にしていただきたいと考えています。まず第1に、昨年12月に行なった靖国神社参拝に関して本筋と関係のない説明を行なう必要はありません。なぜなら、諸外国との外交関係を調整する上で非生産的な行為であるからです。戦没者に対する敬意は国民の信仰の一部であるため、他の国々(ましてや、無神論の信奉者)に対して参拝の意味を論証することは誤った視点を提供することつながります。

第2に、私たちは日本が、起死回生ということわざにあるように、武士道精神を信奉する主無き侍である浪人となることを望みません。「積極的平和主義」に従って横浜で進水式を迎えた「空母型」とされる いずも型護衛艦の運用は、多数の国々で国防費の増強を伴う新たな軍拡競争の開始を招くことにつながります。

安倍総理大臣、私たちが平和について言及する場合、それを抑止を目的とした軍事兵器の開発や対GDP(国内総生産)比における国防費の増加のみに解釈するべきではありません。基本的指針を未だ持たない「積極的平和主義」が中国海洋勢力への対応を理由にかの国の興隆に向けられたものであったとしても、それは本来であれば懸念する必要はないはずです。

兵器面における中国の軍事力は確かに強大なものですが、過去に戦場で試されたことはなく、遼寧と呼ばれる「中古」空母の使用に目を向けてみれば古びたものです。この安倍総理大臣への覚え書きが、アジア地域の平和と安定という秩序を壊すことなく中国の興隆に対抗する上で、日本の外交政策の判断材料となることを願っています。あなたの国の親友より。

2014年2月5日『コンパス』紙(ソース

【管理人コメント】
原文では「Yang Mulia/YM Perdana Menteri Shinzo Abe」となっており、安倍首相に対して「閣下」に相当する最上級の尊称がついています。この「Yang Mulia/YM」という尊称は例えば、「天皇陛下」という表現の「陛下」にあたります。ところで、この記事は社説ではなく、コンパス紙上級記者レネ氏による毎週水曜日掲載の時事コラムです。

↓「中国の陰謀」=「(この記者・新聞は)中国に洗脳されている」というコメント

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