2013年10月7日付コンパス紙社説の翻訳です。ここ半年で掲載された同紙社説(日本・東アジア関連)を訳していますので、関心がある方は下記の【関連記事】を参照して下さい(コンパス紙に関する若干の説明もあります)。【2014年4月21日、一部訂正】
【関連記事】
社説:日本首相の安堵すべき表明
コンパス紙(2013年10月7日)
安倍信三首相は、中国との二国間関係は非常に重要であり、日本の対話のドアは常にオープンだと言明した。
これは今週、安倍首相がコンパスを含めたインドネシア各メディアとの特別インタビューにおいて表明したものだ。現在の両国関係は東シナ海の尖閣諸島(中国側呼称:釣魚島)における領土紛争によって緊迫していると安倍首相は語る。しかし、日本は常に中国との対話のドアを開いている。これは両国が互いに依存し、共にアジアおよび国際社会の安定と発展を維持するための責任を担っているためだ。
安倍首相の表明は安堵すべきものだった。それは、仮に日本が中国との対話を行なおうとしなければ、両国の関係はさらに緊張し、武力衝突の発生も絵空事ではないことを私たちは理解しているからだ。誰もがこうした事態を望んではいない。
いずれにしても、日中間の良好な関係は尖閣諸島における いち領土紛争よりも広範な重要性を持つ。この紛争が日中関係の大勢に影響を及ぼさない事を私たちが望むのも、このためだ。
だからこそ、安倍首相が先日のG20首脳会合で中国の習近平国家主席に対して、「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻り、日中関係を進展させていくことが非常に重要であると伝えたことに私たちは安堵を覚えている。
しかし、私たちはここで、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、日本は領土主権に関して妥協することはなく、自国の領土、領海、領空を守り抜く、という安倍首相の表明を改めて強調したい。
また、中国船の度重なる同地域への侵入が、遅かれ早かれ、明らかに日本の強硬な姿勢を誘うものであるという点も同様に強調しておきたい。こうした状況は間違いなく誰もが望まぬものであり、ましてや、昨今の日本では自衛隊戦力の拡大を推進する動きが現出している。日本の軍事力増強が誰からも望まれぬものであることは疑いようがない。太平洋戦争(1941-1945年)の経験が再び繰り返されることを望む者はいないだろう。
したがって、中国が尖閣諸島における日本の領有に異を唱えるのであれば、中国は日本を挑発するのではなく、この問題を国際司法裁判所へ提訴するべきだろう。私たちはそれを望んでいる。
コンパス紙(2013年10月7日)
安倍信三首相は、中国との二国間関係は非常に重要であり、日本の対話のドアは常にオープンだと言明した。
これは今週、安倍首相がコンパスを含めたインドネシア各メディアとの特別インタビューにおいて表明したものだ。現在の両国関係は東シナ海の尖閣諸島(中国側呼称:釣魚島)における領土紛争によって緊迫していると安倍首相は語る。しかし、日本は常に中国との対話のドアを開いている。これは両国が互いに依存し、共にアジアおよび国際社会の安定と発展を維持するための責任を担っているためだ。
安倍首相の表明は安堵すべきものだった。それは、仮に日本が中国との対話を行なおうとしなければ、両国の関係はさらに緊張し、武力衝突の発生も絵空事ではないことを私たちは理解しているからだ。誰もがこうした事態を望んではいない。
いずれにしても、日中間の良好な関係は尖閣諸島における いち領土紛争よりも広範な重要性を持つ。この紛争が日中関係の大勢に影響を及ぼさない事を私たちが望むのも、このためだ。
だからこそ、安倍首相が先日のG20首脳会合で中国の習近平国家主席に対して、「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻り、日中関係を進展させていくことが非常に重要であると伝えたことに私たちは安堵を覚えている。
しかし、私たちはここで、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、日本は領土主権に関して妥協することはなく、自国の領土、領海、領空を守り抜く、という安倍首相の表明を改めて強調したい。
また、中国船の度重なる同地域への侵入が、遅かれ早かれ、明らかに日本の強硬な姿勢を誘うものであるという点も同様に強調しておきたい。こうした状況は間違いなく誰もが望まぬものであり、ましてや、昨今の日本では自衛隊戦力の拡大を推進する動きが現出している。日本の軍事力増強が誰からも望まれぬものであることは疑いようがない。太平洋戦争(1941-1945年)の経験が再び繰り返されることを望む者はいないだろう。
したがって、中国が尖閣諸島における日本の領有に異を唱えるのであれば、中国は日本を挑発するのではなく、この問題を国際司法裁判所へ提訴するべきだろう。私たちはそれを望んでいる。
Kompas, Senin, 7 Oktober 2013
Pernyataan PM Jepang Melegakan
※【2014年4月21日、一部訂正】 詳細はコメント欄を参照して下さい。
【参考】
マレーシアの領有認定 2島係争で国際司法裁
2002/12/17 13:10 【共同通信】
【ブリュッセル17日共同】ハーグの国際司法裁判所は17日、カリマンタン(ボルネオ)島北東部の2島の領有権をめぐるインドネシアとマレーシアの係争で、マレーシアの領有を認める判決を下した。判決は最終的な効力を持ち、当事国は判決に従うことを前提に判断を仰ぐため控訴はできない。 争いの対象はインドネシアとマレーシア・サバ州の国境近くに位置するシパダン、リギタン両島。シパダン島は世界有数のダイビングスポットとしても知られている。 判決は、マレーシアが二島を実効支配していたと認定した。同国のアブドラ副首相は17日、判決を歓迎するとした上で「インドネシアとの関係を現状以上に強化したい」と表明。インドネシアのハッサン外相は同日、「インドネシア政府は最終決定として受け入れる」と述べた。 1991年にマレーシア企業が観光開発に乗り出して紛争となり、2国間協議が不調に終わったため、98年末に両国が共同で国際司法裁の判断を求めた。
2002/12/17 13:10 【共同通信】
【ブリュッセル17日共同】ハーグの国際司法裁判所は17日、カリマンタン(ボルネオ)島北東部の2島の領有権をめぐるインドネシアとマレーシアの係争で、マレーシアの領有を認める判決を下した。判決は最終的な効力を持ち、当事国は判決に従うことを前提に判断を仰ぐため控訴はできない。 争いの対象はインドネシアとマレーシア・サバ州の国境近くに位置するシパダン、リギタン両島。シパダン島は世界有数のダイビングスポットとしても知られている。 判決は、マレーシアが二島を実効支配していたと認定した。同国のアブドラ副首相は17日、判決を歓迎するとした上で「インドネシアとの関係を現状以上に強化したい」と表明。インドネシアのハッサン外相は同日、「インドネシア政府は最終決定として受け入れる」と述べた。 1991年にマレーシア企業が観光開発に乗り出して紛争となり、2国間協議が不調に終わったため、98年末に両国が共同で国際司法裁の判断を求めた。
http://www.47news.jp/CN/200212/CN2002121701000303.html
【関連記事】
★インドネシア「コンパス」紙社説 日本語訳まとめ
★「中日間の緊張」-インドネシア・コンパス紙社説(2013年8月29日)
★「安倍晋三首相の靖国参拝論争」-コンパス紙社説(2013年12月28日)
★「中国による日本船舶の差し押さえ」-コンパス紙社説(2014年4月23日)
このブログではこれから(主に日本・東アジアに関する)コンパス紙社説の翻訳を予定しています。これは同紙の意見が「正しい」と考えているからではなく、インドネシアを代表するメディアが日本に対してどのような論調であるかを「紹介する」ためのものです。「紹介」が主目的ではありますが、個々の記事に対する冷静な批判は当然あってしかるべきですので、インドネシアの新聞社による論説であるという点を踏まえた上で、皆さんからの忌憚のないコメントをお待ちしています。★「安倍晋三首相の靖国参拝論争」-コンパス紙社説(2013年12月28日)
★「中国による日本船舶の差し押さえ」-コンパス紙社説(2014年4月23日)
※ ※ ※ ※ ※
また、これまでにコンパスの社説やコラムを翻訳した際に、同紙の「スタンス」に関するコメントが相当数寄せられていますが、新聞社の立場や主義・主張はひとつふたつの論説のみから判断できるものではありません。この点に関しては、これからある程度まとまった形でコンパスの社説を紹介する中で、皆さん自身に(できれば全ての社説訳を読んだ上で)判断して頂ければと思います。
コンパスの社説に関しては、インドネシアのネット掲示板紹介と合わせて、少しずつ訳出していければと考えていますので、気長にお付き合いいただければ幸いです(訳文に関して不明な点があれば、コメント欄を含めた下記の宛先までご連絡ください。早急に対処いたします)。
なお、コンパス以外にも日本に関する論説がインドネシアのメディアに掲載されれば、当然できる範囲で紹介するつもりです。情報提供は常時大歓迎ですので、情報をお持ちの方はよろしければ下記の宛先までご連絡ください。コメント欄でも構いませんが、返信を希望される方はツイッターまでお願いします。
インドネシア人の本音@honnesiaインドネシア人の本音 : 【尖閣問題】「安倍首相の安堵すべき表明」-インドネシア・コンパス紙社説(2013年10月7日) http://t.co/gCn7QwGolK
2014/04/20 20:00:19
インドネシア人の本音@honnesiaインドネシア人の本音 : インドネシア「コンパス」紙社説 日本語訳まとめ http://t.co/4xunhZ8jwk
2014/04/19 19:45:15
コメント
コメント一覧 (16)
少なくとも、日本は実質的な領土の保全を保っているだけで、実効支配をするために人間を派遣していないからです それを領空侵犯とか今度は上陸とかを望んでいる中国の立場は何ぞと考えたい 「~人民共和国」とか「民主主義~共和国」という名前を付けた国は基本的に信頼置けない国だと感じている 民主主義といっても自国民のことしか考えない国、少なくとも世界のことを考えない国として認識している
「対中国包囲網へ参加するように」との、圧力が増すからだろうねえ
インドネシアとしてはどっちにも関わり合いになりたくないのに、
日中が対決姿勢を深めて白黒付けたがるようになると、
そこから無縁ではいられないだろうし
対中国のために東南アジアに同調圧力をかけるってのは、
みようによっては太平洋戦争でやったことの焼き直しなわけだし
偶には日本関連でないインドネシアの翻訳もあったら嬉しいです。
多角的に見た方がインドネシアの立ち位置も明瞭になるでしょうし。
資源国家として中国にも依存しなくて良い立場なのかな?
案外、インドより中立の立場を保てるのかもしれないな。
こんな国の新聞の社説って客観的に日本を見る為には重要。
これからもボチボチ翻訳して下さい。
いつも丁寧な翻訳ありがとうございます。
第三者の視点における尖閣諸島問題への意見はこれからの尖閣を考える上でも
当事者国の国民では見えない意見を提供してもらえとても助かります。
海外では中国の挑発行為に関しては伝えられていないのではないかという懸念もありましたが、
そのようなこともないようなのでその点に関しては安堵しております。
情報を発信するということで、厳しい意見も引き寄せてしまうかもしれませんが、
これからも是非伝えていってもらいたいと思います。
一般のインドネシア人の反応も知りたいところですが、
個人的には海外紙がどのような報道をしているのかが気になっているので、
メディアの翻訳をして下さるのは大変にありがたいです。
>日本を挑発するのではなく、この問題を国際司法裁判所へ提訴することを
>私たちは望むものである。
尖閣は日本領としながらも最後の3行で中国に配慮した内容ですね。
直接、中国から侵略されてない分、インドネシアにとって中国の領土拡大政策は、ASEAN諸国の問題ではなく結局他人事なのでしょう。
今後もし、400年間インドネシアを植民地支配していたオランダが、
『インドネシアは古来よりオランダの物だ。オランダに明け渡せ。』と言い出した際には、
『オランダの言い分も分かります。インドネシアにまで軍拡を批判されている日本は、70年前のようにインドネシアに自衛隊を派遣したり兵器を供与するわけにもいかないので、今回は静観すべき。インドネシアはオランダと国際司法裁判所で領土問題を決着するべきでしょう』と朝日や毎日あたりの社説で唱えればいいのですね?よく分かります。
シンガポールの新聞に巨竜の争いに巻き込まれたくないと言っていた記事があったが、これが彼らの立場だと思う。勿論各国それぞれ違う側面もあるし危機感温度差もあるが。
司法裁判所の判決に粛々と従うインドネシアは紳士的だな。
どこぞの常任理事国は爪の垢でも煎じて飲め。
>>したがって、中国が尖閣諸島における日本の領有に異を唱えるのであれば、
>>日本を挑発するのではなく、この問題を国際司法裁判所へ提訴することを
>>私たちは望むものである。
>尖閣は日本領としながらも最後の3行で中国に配慮した内容ですね。
>直接、中国から侵略されてない分、インドネシアにとって中国の領土拡大政策は、ASEAN諸国>の問題ではなく結局他人事なのでしょう。
コメントありがとうございます。分かりにくい訳で恐縮です。まず原文は以下の通りとなっています。
Itu sebabnya, kita berharap jika China berniat menggugat kepemilikan Jepang atas Kepulauan Senkaku, sebaiknya China membawa sengketa wilayah tersebut ke Mahkamah Internasional, bukan memprovokasi Jepang.
そして、上記の部分を以下のように訂正してみました。
「したがって、中国が尖閣諸島における日本の領有に異を唱えるのであれば、中国は日本を挑発するのではなく、この問題を国際司法裁判所へ提訴するべきだろう。私たちはそれを望んでいる」
これが「中国に配慮」した内容なのか、僕にはよく分かりませんが、とりあえずこの訳でお願いします。不明な点があれば、改めてコメントを頂ければと思います。ご指摘ありがとうございました。
日本の軍備増強と太平洋戦争は関係があるようで、実は関係が無い
欧米による植民地支配という決定的な原因が度外視されているからだ
つまり仮に日本がいくら軍事大国になっても、そのことは戦争とは結びつかない
むしろ日本が軍事大国化するほどに、中国との戦争の危険性は弱まるだろう
なぜなら中国は、相手が強くなるほどに手を出さない国であるからだ
そして日本は反対に、相手が自分より弱くて脅威を感じなければ戦争を仕掛けない国だからだ
コンパスの社説はとても現実的だが、国際司法裁判所について触れるのであるなら、裁判の強制力、国際社会でより法の支配を推し進めるための提言など、特に「応訴義務」についてより深く論じて欲しかったと思う。人民解放軍の動きを見る限り、中国は到底、国際法の支配など認めそうもないが・・・。
(応訴義務とは、国際司法裁判所において、他国から訴えられた場合にそれに応じる事を宣言するもの。ちなみに日本は応訴義務を宣言済。米仏は宣言を撤回、露中は宣言していない。詳細は国際司法裁判所のwikiを参照)
世界の警察を自負する米国ですら、自国に不利となれば応訴義務の宣言を撤回しており、世界はまだまだ法の世界が届かない危険な一面もある事を前提として、今後何をするべきか考える時代に入りつつあるのではと思いました。
内と外で首相2人でいいんじゃね
日本の軍備増強と太平洋は無関係だが、
日本の対中国政策と環太平洋地域は無縁ではないだろう
対中国政策の結論として環太平洋地域に目を向けるってのは、
軍事行動の有無という決定的な違いはあるものの、過去と同じ結論じゃないかな
正直私も知りたいけど、ネットユーザーの声を取り上げちゃうと、
自分の意見と違うときに即暴走して叩きだす人もいるから無理じゃないかなぁ…
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